「 Lettonia( レットーニア ) に行く気はないか?」 そんな電話を突然貰ったのは、先月の始めの事だ。 随分長いこと連絡を取っていなかった、 イタリア人造形作家さんから電話を貰った事にも驚いたが、 私を一番驚かしたのは「 レットーニア」という聞いた事のない地名だった。 どうもその地で制作と展示会をしないか、と彼は言っているのだった。 「 有望な作家さんで、誰か紹介できる人がいないか、と聞かれてね、 君の顔が思い浮かんだと言うわけだ!」 はっはっはっ、と野太い笑い声が携帯から響いてきて、 彼の白い、くしゃくしゃにもつれたような髪の毛や、 太い眉毛の奥からキラキラ光る、いたずらっ子のような でも鋭い( やはりアーティストの目だ )青い目が、瞬時に瞼に浮かんだ。 旅は実り多く、楽しい、芸術的な示唆に富んだものになるだろう。 私を思い出して推薦してくれたとは、本当にありがたい。 けれど、私にはレットーニアという地名が、 場所なのか、国名なのかも、皆目検討がつかないのだった。 うーん、と言葉に窮していると、今度は知らない女性が電話にでてきた。 彼女も今回の企画に招待されているらしく、 私にメールにて詳しい概要を送ってくれると言う。 そのハキハキとした、でも落ち着いた話し方に少しホッとした。 ーーー 暫くして送られてきたメールを開き、 添付された英語文を斜めから眺めてあっ!と言った。 慌ててネットで検索をする。 Latvia ラトビア共和国 だ。 バルト海に位置する北東の地。 確かバルト三国というのを世界史で習いはしなかったか… かの地はイタリアではレットーニアと呼ばれているらしかった。 たまに劇的に変わってしまうイタリア語での国名ではあったが、 これはまったく予期していなかった。 さて、どうしよう? プリントアウトした書類を睨みながら、 来月のスケジュールを頭の中で反芻している自分がいた。